にしとこ叢書

気まぐれに。

偽ゴナまとめ。

皆様は「ゴナ」という書体をご存知だろうか。ゴナは、かつての業界最大手「写研」のゴシック体である。原字は書体デザイナーの第一人者、中村征宏氏が制作した。最初に極太の「ゴナU」が1975年にリリースされ、その後10年にわたって ゴナE('79年) → ゴナL, M, D, DB, B('83年) → ゴナH('85年) とウェイト展開された。さらに、装飾書体の ゴナO, OS, IN, LB や、かな書体の ゴナかなO, W, C も作られ、ゴナファミリーは完成された。f:id:Nishi-toko:20210803133627p:plain1975年のリリース以降、ゴナは出版物やTV番組のテロップ、看板など日本の至る所で使用され、国内のゴシック体を代表する存在となった。しかし、90年代以降、PC上での組版が可能となったDTPが普及していく中、写研の書体を使用するには写植機など写研専用システムが依然として必要であり、写植の衰退、DTPの発展と共に、写研の書体はDTPに対応した他社製品へ続々と置き換えられた。ゴナも例外ではなく、その多くがモリサワ「新ゴ」をはじめ他の類似書体へと置き換えられ、現在においてもゴナを採用している作例はごく限られている。

そんなゴナには、ゴナを模倣した偽物と思しき書体が数多く存在する。これらは概して偽ゴナと呼ばれ、Windows/Mac上で使えるものから特定のソフトウェア専用のものまで、バリエーションは様々である。前置きが長くなってしまったが、当記事では私が確認できた数々の偽ゴナを本物のゴナと比較しつつ、その約説をまとめてみた。

※以下の情報は、あくまで私個人がインターネット上の情報などを基に調査したものですので、すべての情報に確証はございません。予めご承知おき下さい。

 

画像・表記について

当記事におけるゴナと偽ゴナの比較画像は、アニメーションGIFを使用しています。従って、閲覧環境によっては画像が正常に表示されない場合があります。

画像表記に関しては、下記の画像をご参照ください。

f:id:Nishi-toko:20220318141737p:plain

 

ラムダシステムズ

LSN太角ゴシック体(N-太角ゴシック体/NHK太角ゴシック体)

f:id:Nishi-toko:20220318141813g:plainラムダシステムズが自社のテロップシステム用に提供しているTrueTypeフォント。元々は「N-太角ゴシック体」として同社のテロップシステムに搭載されていたが、後にTTF化された。NHKのテロップシステムにも「NHK太角ゴシック体」として導入されている。ウェイトはゴナE相当。ゴナとよく似ているが、数字など一部字形の差異により見分けは可能。

 

住友スリーエム

住友スリーエム(現:スリーエム ジャパン)のカッティングソフトで使用できる専用書体。詳しくはコチラの記事へ。

Wissen

f:id:Nishi-toko:20220318141829g:plainPOP作成ソフトで使用できる専用書体。ウェイトはゴナU、E、DB相当のものがある。ベースは本家本元のゴナではなく、住友3Mの偽ゴナである。

 

桜井/セルカム

f:id:Nishi-toko:20220318141820g:plain桜井およびセルカムのカッティングソフトで使用できる専用書体。ウェイトはゴナU、E、B、DB相当のものがあり、偽ゴナの中でも特に本家に似ている。

 

ハリマ

ハリマ(現:テオン)のカッティングソフトなどで使用できる専用書体。ウェイトはゴナU、E、DB相当のものがあり、偽ゴナの中でも特に本家に似ている。

 

インサイト

f:id:Nishi-toko:20220318141824g:plainインサイトのカッティングソフトで使用できる専用書体。ウェイトはゴナU、H、E、B、DB相当のものがある。いずれもゴナと若干の差異があり、見分けることは可能。

 

積水化学工業

積水化学工業のカッティングソフトに、ゴナに酷似した専用書体が搭載されていた(下記参考ツイート)。ウェイトは少なくともゴナU、E相当のものがあり、偽ゴナの中でも特に本家に似ている。

 

日本エレックメイト

日本エレックメイト(現:ネムコ)のカッティングソフトに、ゴナに酷似した専用書体が搭載されていた。ウェイトは少なくともゴナU、E相当のものがあり、偽ゴナの中でも特に本家に似ている。エーティのカッティングソフトにも、これら書体が搭載されていた。

 

武藤工業

武藤工業のカッティングソフトに、ゴナに似た専用書体が搭載されていた。原字は㈲工友社によるもの。

JR九州の一部の駅名標で、使用例を確認できた(下記参考ツイート)。

 

エム・ピー・シー

サイン中角ゴシック体

f:id:Nishi-toko:20220318141833g:plainエム・ピー・シー(MPC)がかつて販売していたTrueTypeフォント。上記の武藤工業のカッティングソフトに搭載されていた専用書体を、MPCがTTF化した。武藤工業の偽ゴナは、「サイン中角ゴシック体」のみTTF化されたが、実際には他のウェイトも存在する。2009年にMPCが倒産した為、現在は販売されていない。

 

テクノアドバンス

風雅カクゴ

テクノアドバンスのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。ウェイトはゴナU、B、DB相当のものがあり、偽ゴナの中でも特に本家に似ている。積水化学工業の偽ゴナをベースに制作された(下記参考ツイート)。

 

TA風雅角ゴシック

テクノアドバンスがかつて販売していたTrueType及びOpenTypeフォント。上記の「風雅カクゴ」を同社がTTF/OTF化した。風雅カクゴよりも曲線のアウトラインがガタついている。テクノアドバンスの倒産後はスキルインフォメーションズから販売されていたが、現在は販売終了となっている。

GS角/中角/細角ゴシック

テクノアドバンスのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。ウェイトはゴナE、B、DB相当のものがあり、偽ゴナの中でも特に本家に似ている。

 

システムグラフィ

MY角ゴ(GMY角ゴ/SD角ゴ/G角ゴシックMY/TA角ゴ/ST角ゴシックMY/マックス太角/中角ゴシック体)

f:id:Nishi-toko:20220318141844g:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。MY角ゴU、B、MはTrueTypeフォントの「GMY角ゴ」としても販売されている。制作元はアークシステム。ベースは本家本元のゴナではなく、住友3Mの偽ゴナである。日本デジタルグラフィックマックス、テクノアドバンス、ラオンなどのカッティングソフトにも搭載された他、テクノアドバンスからは「TA角ゴ」としても販売された(テクノアドバンスの倒産後はスキルインフォメーションズから販売されている)。OEMは下記参照。

TA角ゴ

f:id:Nishi-toko:20220318141852g:plainテクノアドバンスの「TA角ゴ」は、ウェイトによって「MY角ゴ」と字形が若干異なる。

SN角ゴ(SK角ゴ)

f:id:Nishi-toko:20220318141856g:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。制作元はアークシステム。ウェイトはゴナU、E、DB相当のものがある。日本デジタルグラフィックのカッティングソフトにも搭載されている。OEMは下記参照。f:id:Nishi-toko:20220318150450p:plain

ST角ゴ

f:id:Nishi-toko:20220318141900g:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。制作元はアークシステム。ウェイトはゴナU、E、B相当のものがある。日本デジタルグラフィックのカッティングソフトにも搭載されている。OEMは下記参照。f:id:Nishi-toko:20220318211902p:plain

TK角ゴ(PC角ゴ)

f:id:Nishi-toko:20220318141904g:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。制作元はアークシステム。ウェイトはゴナE、DB相当のものがある。日本デジタルグラフィックのカッティングソフトにも搭載されている。OEMは下記参照。f:id:Nishi-toko:20220318211933p:plain

TE角ゴU(TE角ゴL100/HGTE角ゴシックU)

f:id:Nishi-toko:20220318141908g:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。制作元はアークシステム。ゴナUのウェイトをさらに太くしたような書体。日本デジタルグラフィックのカッティングソフトにも搭載された他、リコーからは「HGTE角ゴシックU」としても販売されている。OEMは下記参照。f:id:Nishi-toko:20220318212042p:plain

MY重ね角ゴU(GMYゴシックORU/SD重ね角ゴM100/HG重ね角ゴシックH)

f:id:Nishi-toko:20220318141911p:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。TrueTypeフォントの「GMYゴシックORU」としても販売されている。制作元はアークシステム。MY角ゴUをベースに、画の重なる部分にくい込み処理を施した装飾書体。日本デジタルグラフィックのカッティングソフトにも搭載された他、リコーからは「HG重ね角ゴシックH」としても販売されている。OEMは下記参照。

MY角シャドーU(SD角シャドーM100/G角シャドーMY-U/TA角シャドー)

f:id:Nishi-toko:20220318141914g:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。制作元はアークシステム。MY角ゴBをベースに、影付け処理を施した立体的な装飾書体。日本デジタルグラフィック、テクノアドバンスのカッティングソフトにも搭載された他、テクノアドバンスからは「TA角シャドー」としても販売された(テクノアドバンスの倒産後はスキルインフォメーションズから販売されている)。OEMは下記参照。f:id:Nishi-toko:20220318212655p:plain

SN角シャドーH(SK角シャドーM100)

f:id:Nishi-toko:20220318141917g:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。制作元はアークシステム。日本デジタルグラフィックのカッティングソフトにも搭載されている。OEMは下記参照。f:id:Nishi-toko:20220318213025p:plain

MYメタル角ゴB(GMYメタルゴシックB/SDメタル角ゴM100/HGメタル角ゴシックE/DCクリスタルW5)

f:id:Nishi-toko:20220318141920p:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。TrueTypeフォントの「GMYメタルゴシックB」としても販売されている。制作元はアークシステム。MY角ゴBをベースに、メタリック処理を施した立体的な装飾書体。日本デジタルグラフィックのカッティングソフトにも搭載された他、リコーからは「HGメタル角ゴシックE」、ダイナコムウェアからは「DCクリスタルW5」としても販売されている。OEMは下記参照。

MYインライン角ゴU(GMYインラインゴシックU/SDインライン角ゴM100/HGインライン角ゴシックH)

f:id:Nishi-toko:20220318141923g:plainシステムグラフィのカッティングソフトなどで使用できる専用書体。TrueTypeフォントの「GMYインラインゴシックU」としても販売されている。制作元はアークシステム。MY角ゴUをベースに、インライン処理を施した装飾書体。日本デジタルグラフィックのカッティングソフトにも搭載された他、リコーからは「HGインライン角ゴシックH」としても販売されている。OEMは下記参照。

文鼎字型

文鼎黑體U

f:id:Nishi-toko:20220318141926g:plain台湾のフォントメーカー「文鼎字型」のフォント。繁体字版や簡体字版の他に、日本語フォントの「ARゴシック体S」も販売されている。仮名は全くの別物だが、漢字がゴナUに似ている。

文鼎霹靂體U/文鼎金牛座U

f:id:Nishi-toko:20220318141929p:plain台湾のフォントメーカー「文鼎字型」のフォント。どちらも文鼎黑體Uをベースとした装飾書体。文鼎霹靂體Uは繁体字簡体字、文鼎金牛座Uは繁体字のフォントのみ存在する。

 

正字

方正超粗黑

f:id:Nishi-toko:20220318141932g:plain中国のフォントメーカー「方正字庫」のフォント。仮名は石井太ゴシックのトレースだが、漢字はゴナUに似ている。繁体字簡体字のフォントが存在する。

 

さいごに

偽ゴナに関しては一般販売されていないものも多く、当記事で紹介した書体以外にも存在すると思われます。より詳しい情報をお持ちの方はコメントしていただけますと幸いです。閲覧ありがとうございました。